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  『鎌倉彫の技法についての覚え書き』

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工程表のお好きな項目をクリックすると、
  画像入りの解説が閲覧できます。


       ・はじめに

◆鎌倉彫の訓練校で学んでいた頃に、
『職人の技量(:腕前)を評価する際、どんなポイントを見れば良いか?』について、同輩や先輩と話し合ったことがあります。
その時に列挙された評価項目は――、

@仕事の精度・確実さ Aスピード B持久力 
C創意工夫
 (:新しい技法・デザイン・表現法を編み出す能力) 
Dリカバリー(:失敗しても原状回復できる能力。
         歴史的作品を修復する能力。)
Eリーダーシップやチームワーク
 (:共同作業で規模の大きな仕事をする場合に重要)
F指導育成(:後継者を教育し養成する能力) 

  ――の7つでした。
通常、“技=テクニック”というと@〜Dの要素が問題になりますが、伝統的な手仕事を普及し継承して行こうとする場合、EFも確かに重要な要素かもしれません。。。

◆しかし、上記を首尾よくクリアしても、
『せっかくの技が活かされていない』
『技が泣いている』
などと評価される場合があり、なかなか油断できません。

これは、『技法』の“技”だけでなく、
“法”の部分も総合して、バランスをとる必要があるからだと思われます。


『技法』という言葉を、手持ちの国語辞典(:新明解国語辞典 第二版 三省堂刊)で調べてみると――、
“技術に関する方法”
――と説明されています。

これでは埒(らち)が明かないので、
今度は、『技・術・方・法』という漢字を、いろいろな漢和辞典で調べてみると――、

・・・仕事を成し遂げるための手腕の巧みさ。
    (=技量:テクニック)。
・・・曲がりくねった細い小道。
    転じて、“目的を達するのに必要な筋道”。
    (=段取り・手順:メソッド)。
・・・真四角。正方形。
    転じて、“バランスがとれている”
    “理にかなって正しい”こと。
    (=合理性:リーズナブルネス)。
・・・道理にかなった、誰にも通じる“やり方”。
    (=実践要領:マニュアル)。

  ――というような意味合いが浮かび上がってきます。 

◆これを見ると、訓練校時代に話し合った『技量:テクニックの練磨』のほかに、
目標(=作品の工芸美堅牢さ)を達成するための段取り=工程』や『各工程を消化して行くための実践要領=手法』を『合理的に工夫すること』が大切なのだと考えられます。

逆に考えれば、どんなに精確に、速く、粘り強く、斬新な仕事をしたとしても、
作品の工芸美や堅牢さがなおざりにされていたり、
工程に二度手間や手抜かりがあったり、一々の作業のやり方に無理・無駄・ムラがあったりすると、
『技が活かされていない。泣いている』
ということになってしまいます。

“@正しい目標設定・A適切な段取り・B堅実な実践・C合理的な工夫の積み重ね”
――の四条件がバランス良く満たされた時、初めて“技”が冴える、
というのは(講師自身も何かと耳の痛い部分が多いですが)、
ひょっとすると、世の中のほとんどすべての仕事に共通する“鉄則”かもしれず、
作品を手がける上で逃れようのないであるようにも思えます。


ここでは、“鎌倉彫の技法”をテーマとして、
これまで体験したことをお話ししたいと思いますが、
技法を解説する際には――、
『その技法が何を目標としているか』
『何故ここでこの工程が必要なのか』
『その工程を実践するための“適切な手法”は何か』
『今後“工夫の余地”があるとすれば何か』
――を、随時意識しながら、お話を進めて行くつもりです。

 どうぞよろしくお願い致します。


       ・鎌倉彫の工程表

『工程』は、
“このプロセスをきちんと踏めば、間違いのない品物が出来上がる”という究極の作業手順です。
『鎌倉彫の伝統』という場合、
代々継承された“伝統技法の背骨”に相当するのが、『工程』であると思います。
『工程表』は、800年(見方によってはそれ以上)の彫木・彩漆の技術の精華を体系的に要約したもので、そういう意味では、先人達の“汗と涙の結晶”でもあります。
したがって、往時は“秘伝”とされていた部分も多かったろうと思います。

講師が訓練校で指導を受けた際に、
『“先人のご恩”に対する感謝の気持ちの大切さ』を懇(ねんご)ろに説かれた大先生がおられましたが、講師もこの歳になって、そのお気持ちが身にしみる思いを持つようになりました。。。

――工程・技法に興味を持たれた方にお勧めの書籍――
・『鎌倉彫』 後藤俊太郎著 主婦と生活社刊
・『現代の鎌倉彫』 木内晴岳著 マコー社刊

この2冊は、往年の訓練生達の“バイブル”でした。
どちらも、歴史・彫刻・漆塗りについての簡にして要を得た解説が、写真入りでたいへん分かりやすく紹介されています。
アマゾンや日本の古本屋、ヤフーオ―クションなどで安価に入手できますので、興味をもたれた方は是非お手にとって見て下さい。
素晴らしい本です。
その他にも、
・『伝統鎌倉彫 三橋式彫りの技法』 三橋昌山著 日貿出版社
・『これからの鎌倉彫教室』 後藤俊太郎著 日貿出版社

などの、書評の定まった良書があります。
たいていの図書館に蔵書がありますので、ぜひ一度ご覧になって下さい。



【1.彫りの工程表:一般的なレリーフの場合


@写生〜絵付け
・・・これについては『デザイン・図案・文様・表現のページ』で扱います。

Aたちこみ Bキワ彫り Cこなし D肉付け E地彫り

F脈入れ G面取り


2.塗りの工程表:一般的なお盆類の
   『干口
塗り(ひくちぬり。“乾口塗り”とも)』の場合】


0.検品(大キズ見と大仕分け)
1.コクソ彫り   2.コクソかい
 

3.こくそ切り
4.木地調整(面取り・空(から)ペーパーあて)
   
5.木固め

6.木固め研ぎ(木固めにぺーパーあて)   
7.キズ見サビ(1回目) 

8.キズ見(1回目)研ぎ     
9.サビ付け1回目(裏)

10.サビ付け1回目(表)

11.空研ぎ(1回目のサビ面にペーパーあて)    
12.サビ付け2回目(裏)

13.サビ付け2回目(表)

14.表のサビのキワ研ぎ&蒔き錆(さび)  

15.サビの水研ぎ
16.蒔き錆研ぎと蒔き錆払い    
17.キズ見サビ(2回目)

18.キズ見(2回目)研ぎ    
19.サビ固め

20.サビ固め研ぎ    
21.捨て中塗り(裏)

22.捨て中塗り(表)

23.捨て中塗りの水研ぎ・空研ぎ(軽く)
24.刷毛目描きと本中塗り(裏)

25.本中塗り(表)

26.本中塗り研ぎ(表)
27.上塗り(表)・干口取り

28.本中塗り研ぎ(裏)
29.上塗り(裏)・干口取り

30.赤研ぎ・刷毛目艶消し
31.摺り漆1回目(刷毛摺り)

32.摺り漆2回目(タンポ摺り)

33.摺り漆3回目(タンポ摺り+すす玉磨き)

34.摺り漆4回目
   (タンポ摺り+すす玉磨き+イボタ艶出し)

                ――工程完了――
※上記の内、一行空白で仕切られた工程グループは、
 その気になれば“一日”でまとめて消化できるものです。



今後は、以上の各工程について、ランダムに(出来れば写真入りで)ご案内して行きたいと思っています。

                ――つづく――

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