鎌倉彫道友会 道具道楽
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【目次】 1.まずは”漆刷毛”を観察してみましょう 2.漆刷毛の養生(:布着せの工程) 3.漆刷毛の切り出し
漆刷毛の切り出しQ&A:1~3
『漆刷毛(うるしばけ)の部屋』へ、ようこそ!!
ここでは、プロローグでお話ししたように、 鎌倉彫で使う様々な“漆刷毛”の可愛がり方について、 いろいろな角度から、お話してみようと思います。 道具としての“漆刷毛”を “理解して大切にする”ための実践的な方法について、 可能な範囲で、触れて行きたいと思っています。 プロの塗師の方がご覧になる場合、 それぞれの扱い方の違いによって、 首をひねりたくなるような記述もあるかもしれませんが、 「まぁ、こんなやり方もあるのかな~」 くらいに軽く読んでいただいて、 ご海容くださると、ありがたいです。 |
※ご案内する予定の漆刷毛の一部です。一般的な漆刷毛のほかに、立交(たてまぜ)、 刷毛目、乾漆、鎌刷毛、地塗刷毛、胴摺、薄口・厚口刷毛など、いろいろ揃ってます。 ほとんどが、広重刷毛・泉清吉刷毛で、泉さんのネット通販で購入しました。 一枚一枚、切り出し方を工夫して、自分なりに使い分けるようにしています。 |
※漆刷毛の歴史や制作工程、保存方法や切り出し方などなどについては、
リンクのページにご紹介しました
“漆刷毛工房 ひろしげ”さんのHP(全部で5サイトあります!)をぜひご覧ください。
その1 まずは“漆刷毛”を観察してみましょう
『漆刷毛』を初めて見る、という方もいらっしゃると思いますので、
まずは刷毛の全体像を眺めてみたいと思います。
上の写真(↑)が、“ひろしげ”さんの1寸2分幅(約3cm6mm幅)の上塗り用の漆刷毛の表の写真です。
使いだして半年目くらいの刷毛で、ずっと“中塗り”の工程でお世話になってます。
(もうそろそろ、毛先の形も整って来たので、上塗用に使うつもりです。)
“マルにヒの字”のトレードマーク、“漆刷毛師 刷毛広 広重”の刻印――30年以上お世話になっている商標で、
これを見ているだけで『安心感』と『やる気』が湧いてきます。
同じく裏面の写真です。(↑)
『大極上』というのは、ひろしげさんの上塗り用の漆刷毛のグレードの中では、
トップレベルの品質であることを意味します。
『大極上』の上には、究極レベルの『泉清吉刷毛』があり、
『大極上』の下には、『特選刷毛』『赤毛刷毛』などなど、
様々な塗りのシーンに適合する刷毛が用意されています。
“半通し”というのは、『全長の半分まで、毛板(けいた)が仕込んでありますよ』という意味です。
この刷毛は、毛板が入っている部分に布着せをして、漆を塗って、養生してあります。
※“純良赤毛”の説明については、泉さんの「公式サイト」の“制作工程”をぜひご覧ください。
こちら(↑)は毛足(けあし)の拡大図です。(いや~、目が詰んでいます~♪)
毛足の先端部分の毛先のラインが、
微妙なカーブ(:両端と中央部がやや突起した、極めてゆるいW型のカーブ)を描いているのが観察できます。
これは、約半年の使用で、もともと真っ直ぐだった毛先のラインが、自然に摩耗して変形したものです。
ひろしげさんの刷毛は、ゴミや塵がすぐに出なくなるので、もっと早めに上塗り用に使えるのですが、
講師の場合は、毛先のラインの形が上の写真のようになったところで、上塗り用に移行するようにしています。
この形状になるまで使い込んだ刷毛は、凹凸のある彫刻面に、何かと馴染みやすく、
刷毛目(はけめ)も目立ちにくいように思います。。。
こちら↑は、使い込んで、毛足がだいぶん短くなった刷毛の拡大図です。(これは1寸5分幅の漆刷毛です。)
このくらいの短さになると、細かな凹凸の多い複雑な彫りや、4ミリ以上の深めの彫り物を塗るには、
いま一つ使いにくくて向きません。
しかし、“平面”や“器物の裏面”などの“広くて比較的平板な面”を塗るときは、
漆がよく切れて、なかなか使いやすいです。
このくらいの短さになると、刷毛先のW型のゆるいカーブは、もう必要ありませんので、
切り出しや彫刻刀で、真っ直ぐに切りそろえて調整し直します。
写真の刷毛は、“ど真ん中~やや右よりの部分”と“両端部”の毛先揃えがまだ不十分で、調整が必要です。
上の写真(↑)は、漆刷毛の“厚み”を比較するために撮りました。
刷毛の幅はどれも同じ“1寸2分”なのですが、
左から“薄口”“通常”“厚口”のそれぞれの毛厚(けあつ=毛の厚み)は、
それぞれ~2.4ミリ~4.4ミリ~6ミリ~と、かなり違います。
“薄口刷毛”は、MR漆などの“柔らかい漆”に、
“厚口刷毛”は顔料の割り込み率の高い“硬い漆”に用いると調子が良いです。
漆は、夏場と冬場の気温差で、粘度が下がったり上がったりしますので、
季節によってうまく使い分けることも、快適に仕事をするために大切だと思います。
また、非常に深い彫り物(深さ1センチくらい)を塗るときは、
厚口刷毛の毛足をやや長めに切り出して用いる場合もあります。
――ということで今回は、漆刷毛のおおまかな全体像を観察しながら、
毛足の長さ・毛先のラインの形状・毛の厚みなどのそれぞれの条件が、
塗りの実作業にどのように影響してくるかを、実体験に照らしてご説明いたしました。
漆刷毛に生き生きと働いてもらうには、それなりの“お手入れ”が必要ですが、
『道具道楽』である講師としては、そういう“お手入れ”をしている時が、“至福のひととき”でもあります。
次回は“養生のための「布着せ」”を予定しております。m(_ _)m
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その2 漆刷毛の養生(:布着せの工程)
◆漆刷毛は、思いのほか永く使える道具で、
『8寸丈の本通しの泉清吉刷毛だと、本職の塗師が日常的に使っても20年近い寿命がある』
と聞いたことがります。
しかし、その間の漆刷毛の使用環境はけっこう苛酷なもので、
力ずくで揉み出したり突き出したりすれば、物理的なストレスが加わって刷毛板の継ぎ目が剥がれたりしますし、
水・油・溶剤・顔料・漆などが付着すれば、刷毛板は化学的なストレスにもさらされることになります。
そこで、長期の経年使用を乗りきる“備え”として、「布着せ養生」が必要となってくるわけです。
『布着せ』は、漆刷毛の本体に“麻布”“寒冷紗”などを巻き付けて“糊漆”で固定する養生法で、
その主な効果としては――、
①刷毛板の接合部分の“剥がれ”を防止
②刷毛板の経年劣化を抑止(=紫外線を遮断し、酸化を抑え、付着した水・油・溶剤・顔料・漆などを拭き取りやすい)
③見た目がきれいで清潔感があり、色分けすれば用途別に識別しやすい
――などがあげられます。
※補足1:石州紙などを貼り付ける方法もありますが、強度の点では“布”のほうが優位です。
※補足2:ヒノキの刷毛板の肌触りを重んじて、養生をしない主義の職人さんもいます。
実際のところ、泉さんが造る刷毛はたいへん丈夫で、
力ずくの手荒い扱いをしなければ、割れや剥がれも生じにくいようです。
(刷毛板を少し厚めに注文すると、刷毛板相互の接着面積が広まるため、さらに丈夫さが増すようです。)
したがって、
物理的・化学的なストレスをほとんど与えずに、やさしく刷毛を使える職人さんにとっては、
「布着せ養生」は不要かもしれません。
泉さんのHPにも紹介されていますが、
木曽ヒノキの刷毛板を口にくわえる時の歯触りは、確かに格別なものがあります。笑
講師も4分幅以下の小刷毛には、あえて布着せをしないことがあります。
◆以下、“立交刷毛(たてまぜばけ) 2寸幅 本通し”の布着せ養生の工程を、
画像をまじえてご説明します。
※補足:立交刷毛とは・・・
刷毛の腰を強くするために、
人毛を牛毛・馬毛でサンドイッチ状に挟んで一体化した刷毛の名称です。
今日では“馬毛”の使用が一般的であるようです。
(牛毛・馬毛については、泉さんのHP:刷毛目の歴史をぜひご覧ください。)
漆刷毛の業界では、牛毛・馬毛のことを“タテゲ”といい、
タテゲを付けることを“タテツケ”と言うそうです。(←泉さんに教わりました)
“タテ”とは、“牛毛・馬毛”の業界用語だと思われます。
立交刷毛は、関西では“立入り(タテイリ)”と呼ばれ、特に仏壇職人さんの必需アイテムと聞きました。
鎌倉彫では、盆皿等の裏の“刷毛目描き”に用いると、控えめで上品な刷毛目が立つと言われます。
馬毛は硬くて糊漆がたくさん使ってあり、入念なゴミ出しが必要(=つまり、物理的ストレスの負荷が大)なので、
立交刷毛や刷毛目刷毛は「布着せ養生」が必須の刷毛であると思います。
――以下、画像をまじえての工程説明に移ります。
←① 豆鉋でカドを面取りします。 ペーパーあてでもOKです。 |
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←② 寒冷紗を布目に沿ってカット。 バイヤスに切る方法もありますが、布目に沿って切るほうが、 型崩れしにくくて、扱いやすいです。 これまでに、この切り方で不具合が生じたことはありません。 今回は念のため“二重巻き”で補強します。 |
←③ 寒冷紗で濾過したご飯糊と下地用の生漆です。 糊は少し固めに調整します。 |
←④ ③を、定盤(じょうばん:ここではガラス板)の上で箆(ヘラ)で混ぜ合わせて“糊漆”を作り、そのあと薄く延ばします。 このての作業は、プラスチック箆が調子良いです。 |
←⑤ ②でカットした寒冷紗を置きます。 |
←⑥ ⑤の上からさらに糊漆を乗せて薄く延ばします。 薄く延ばした糊漆で、寒冷紗をサンドイッチする感じです。 |
←⑦ 刷毛の本体を載せます。 本通しなので、一度に全体を布着せしてもよいのですが、今回は下半分だけ布着せしてみます。 半通しや1/3通しを布着せする時の参考になさってください。 |
←⑧ 箆で左端の寒冷紗を持ち上げ、側面に貼り付けます。 【注】今回は「二重巻き」なので“側面”から巻き始め、最終的には巻き始めた“側面”のみが “三重”になるように巻き終えます。 「一重巻き」の場合は、表面(または裏面)のまん中から巻き始めて、ぐるっと一周して、同じくまん中で巻き終わるように着せる場合が多いです。 |
←⑨ 刷毛本体を右方向に回転して、寒冷紗を巻き取るように、 定盤から剥がして行きます。 |
←⑩ 寒冷紗を巻き取ったところ。 寒冷紗が刷毛板に密着していないのでこのままではNGです。 布着せ作業のポイントは、着せた布にエアポケットを作らないことです。 |
←⑪ 箆でしごきながら、寒冷紗を刷毛板に密着させて行きます。この際、常盤に延ばした糊漆も使い切るようにします。 ※余談ですが、一人で撮ったので、この部分の撮影はたいへんでした~。手前に写っている箆は、実は口にくわえて撮ってます。笑 |
←⑫ どうやら、すき間なく上手く巻けました。 定盤に延ばした糊漆もほぼ使い切りました。 糊漆の色合いが濃くなっていますが、時間が経過するともっと濃い色になって固まって行きます。 |
←⑬ 室(むろ)と呼ばれる乾燥室に入れて、乾きを待ちます。 通常、2日くらい放置します。 |
←⑭ 乾いたら、彫刻刀で余分な“ツマミしろ”をカットします。 不必要な部分だけをカットして、カドに布目のザラつきが残らぬよう、丁寧に切り取ります。 |
←⑮ 完成です。 油手体質で、手が滑る傾向のある人は、布目の凹凸が滑り止めになるので、この状態で使うのが良いと思います。 |
←⑯ 講師はもう少しつるっとした手触りが好きなので、下地漆や黒中漆を塗って、布目を埋めてしまいます。 ※この際、サビ漆は使いません。(あとで切り出す時に、刃物の刃先が傷みやすいので。。。) |
←⑰ 程よく布目が埋まりました。 このあと、彩漆(いろうるし)を塗って、用途別にグループ分けすることもあります。 また、檜の素肌が露出している部分に透明度の高い漆を拭き込むのも、いい感じです。 あとは各人の“好み”に合わせていろいろにドレスアップしてあげましょう!笑 |
←⑱おまけ 朱合漆を拭き込んだ泉清吉刷毛です。 最初は真っ黒になりますが、時間がたつと1年くらいで漆が透けてこんな感じになります。 黄春慶漆を片脳油で薄めて拭き込み、ゆっくり乾かすと、 もっと透明度の高い黄金色の仕上がりになります。 泉さんの『日本一』の刻印をかっこ良く保存したい方、一度お試しください。 |
◆以上で、今回の『漆刷毛の養生:布着せの工程』を終わりますが、
講師は、この作業がけっこう好きで、初対面の漆刷毛への“ご挨拶”かな、と考えています。
『これからよろしく頼みますね』という気持ちで養生すると、
刷毛のほうも『はいはい、こちらこそ』と言う感じで、
こころなしか手に馴染むのが早いような・・・
“気のせい”と言ってしまえばそれまでですが、そんな気がしています。
なんというか・・・道具が良い“遊び相手”になってくれている感じで、
職人的には、こういう贅沢な時間をもてることが、
つくづく幸せでありがたいことなんだろうと思います。。。
さて次回は、『漆刷毛の切り出し』をご案内する予定です。
またよろしくお付き合いくださいませ。m(__)m
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その3 漆刷毛の切り出し
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①ちょっと使い込んだ1寸5分幅の下地刷毛です。 広重さんの「テーパー型の赤毛刷毛」で、 『錆(さび)付け専用』ですが、だいぶチビてきたので、 切り出すことにしました。 現在の毛足の長さは、最大部分で8ミリ弱です。 ※赤色の帯は、『この辺まで毛が入っている』という目印です。 |
②横から見るとこんな感じです。 毛足の根元で錆が固まって、毛先が開いています。 時間ぎりぎりまで仕事して、慌てて出かける時など、 揉み出しや突き出しが不十分になりがちで、 気がつくと、こんな形状になってしまいます…とほほ 頑張ればまだもう少し使えそうですが・・・ やっぱり、この形状はちょっと使いにくいかも。。。笑 |
③刷毛の切り出しに使う『塗師包丁(ぬしぼうちょう)』です。 刃渡り3寸5分(=10.5㎝)の特注品で、 三木の五百蔵(いおろい)さんに造ってもらいました。 漆刷毛の切り出しには、「切れる刃物」が必要ですが、 この塗師包丁は素晴らしい切れ味で、 研ぎやすく永切れ感もあり、たいへん重宝しています。 柄と鞘は自作で、乾漆粉蒔き仕上げです。 これは漆刷毛の切り出し専用に誂えた塗師包丁なので、 箆(へら)の切り出しなどには使っていません。 ※塗師包丁が乗っている板は、「つまみ台」「つまみ板」などと呼ばれる もので、「まな板」みたいに使う仕事台です。 |
④根元がどんな風に固まっているか、 ちょっと切り出して見てみましょう。 ※講師は、カット面に小刃付きの刃裏をあてて 切り出しますが、カット面に刃表をあてて切り出す 職人さんもいます。 要は、『怪我をせずに、手早くきれいに仕上げる』のが肝心で、 その意味で「いろんな流儀があるな」と思います。 |
⑤う~む、思った通りの固まり方です。。。 でも、菜種油を吸っているので、 錆の硬さは、それほどでもなさそうです。 |
⑥ためしに錆の固まった部分をカットして、断面の様子を調べてみると・・・ ・・・割合にもろい感触で、やはり、それほど硬くないようです。 これなら、きちんとほぐせば、問題なく使えそうです。 【注意】黒中漆用や上塗り用の刷毛で、根元がガチガチに固まっている場合は、 固まっているすべての部分を、いさぎよく切り落とします。 |
⑦カットラインの見通しがついたので、 不要部分(:毛先から約6ミリ位の部分)を 塗師包丁で切り落とし、切り出し作業を始めます。 最初は刃物の先端部分で、 斜めにガリガリと威勢よく切り出します。 |
⑧大体の形が出来たら、刃渡り部分で形を整えながら、 刷毛の断面が『砲弾型』になるように切り出します。 砲弾型に切り出すと、刷毛の腰が強くなります。 ※塗師包丁が切れないと、毛がバラバラに崩れてしまうので、 事前に充分に研ぎ込んでおきます。 切り刃の角度を適切に調整することも重要です。 この刃物では、35度くらいに調整してあります。 |
⑨切り出し完了です。 いい感じの形状です。 |
⑩薄挽き砥石に#800番の耐水ペーパ-を 巻いて、切り出した面を軽く水研ぎします。 ※刷毛板を過度にふやけさせないように、 少なめの水で水研ぎします。 ※#1000位の人造中砥で水研ぎするのもOKです。 |
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⑪水研ぎ完了です。 この面が平らだと、塗り面も平らに塗りやすくなります。 ※講師は、錆付け用の毛先のラインを、微妙に丸みを帯びた 中高(なかだか)の形状にするクセがあります。 ※この刷毛は毛板を3枚重ね合わせた腰の強いタイプで、 画像の上部に毛板の合わせ目の跡がきれいに横向きに走っています。 |
⑫毛先を斜め上から見たところ。 砲弾型のゆるいアール面を意識しながら切り出し、 毛先は刃物のように鋭く尖らせます。 |
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⑬刷毛板の「あま皮」の部分をカットして、取り除きます。 深く切り過ぎて、『毛』を傷つけないように気を付けます。 |
⑭この作業は、彫刻刀で行なっても良いと思います。 |
⑮画像のように、薄皮一枚分の刷毛板を削ぎ残して、 刃物が『毛』の根元にじかに触れないように手加減します。 |
⑯耳の部分の刷毛板も無理にはがさず、 ほぐし作業の過程で自然に剥がれ落ちる ように、薄く削ぎ残します。 |
⑰つまみ板のカドに、毛先をじっくり押し当てて、 毛板をほぐしてゆきます。 ※水研ぎした時の水分で、毛足が少し湿っているので、 ほぐしやすいと思います。板が湿るのがイヤな場合は、 板をレジ袋などで包むか、金床の面取りカドなどを利用 します。 追加の水を含ませながらほぐすのもOKです。 |
⑱4~5分間頑張ると、根元まで軟らかくなって、 毛がしなやかになります。 広重さんの刷毛は、この「ほぐしやすさ」が特徴です。 ほぐしの過程で、切れ毛や折れ毛が生じることもあまりありません。 『ほぐしやすく、毛の密度も高い』というのは、たいへん有り難いことです。 |
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⑲削ぎ残した刷毛板も、自然に剥がれてきました。 この状態になったら、 彫刻刀や爪先でそっと取り除いてやります。 |
⑳毛先をしごいてみると、 一本一本の毛はまだ分離しきっていませんが、 かなりほぐれて来たことが確認できます。 毛の間に、粉状・粒状の糊漆がたくさん付着しています。 |
㉑普通は、このあと玄翁で叩いて、 もっとほぐして行くのですが、 今回は、菜種油と水を使って 「揉み出し・突き出し」を繰り返す方法を試してみます。 画像は、菜種油でゴミを揉み出そうとしている所です。 |
㉒そのあと、さらに水を加え・・・ |
㉓“揉み出し”と“突き出し”を繰り返すと、 いわゆる「乳化現象」というのが起こって・・・ |
㉔粘り気のある『油水』の中に、 糊・漆・ごみ・切れ毛・折れ毛が出てきます。 ※“揉み出し”と“突き出し”について、 やや詳しい画像を末尾に追記しましたので、ご参照ください。 |
㉕そのあと石鹸を使って、手もみ洗いを繰り返すと、 かなり良い感じにほぐれて・・・ ※乳化した『油水』を毛足の部分に含ませて、一晩放置してから 石鹸洗いすると、洗い出されるゴミの量が増えるように感じます。 |
㉖「下地用」なら普通に使える状態になります。 ここまでの所要時間は、毛幅・毛厚にもよりますが、 だいたい15分くらいかと思います。 【注意】漆を塗るときは、 刷毛を完全に乾かしてから使うようにします。 |
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㉗中塗り・上塗りに使う刷毛は、 このあと毛足と刷毛板をよく乾かしてから、 金床に乗せて玄翁で叩きます。 ※画像は、玄翁の叩き損じから刷毛板をガードする ための道具で、泉さんに教わったっものです。 |
㉘『玄翁叩き』は、一本一本の毛を分離させ、 毛にこびりついた細かいゴミ(:主に糊漆)を払い落とすために 行なう作業です。 あまり強く叩いて、折れ毛や切れ毛を増やさないように 気を付けます。(※上の画像では、ゴム槌を使っています) ㉙叩きとほぐしが終わったら、再度、菜種油でよく揉み出し、 丁寧に突き出して、石鹸で洗います。 ※ご飯糊で揉み出し・突き出しを行なって、さらに頑張る方法もありますが、 泉さんの刷毛は、そのような必要はないと思います。 |
㉚洗い終わったら、完全に乾かして、 刷毛板の面を取ります。 |
㉛カドの面取りをしているところです。 毛足の長さは約12ミリに落ち着きました。 |
㉜出来上がりました。 これでもう、刷毛からのゴミはほとんど 出ないはずです。 ※今回の切り出しで、この刷毛は約7ミリほど 短くなりました。この調子なら、少なくとも あと2~3回は切り出せそうです。 |
㉝毛も一本一本、分離して独立しています。 錆付けに使うのはもったいないほどの毛の密度 ですが、これでザビを付けると、刷毛目が立たない ので、あとの錆研ぎがかなりラクになるのです。 ※万一、切り出し面に不具合な凹凸が出た場合は、よく切れるカミソリ などで平らに均すか、人造中砥に撫でつけるなどして再調整します。 |
㉞作業が終わったら、次回すぐに使えるように 必要に応じて刃物に研ぎを入れておきます。 ※この塗師包丁は、1寸5分幅の漆刷毛なら、 一度の研ぎで5枚くらいはいい感じで切り出せます。 研ぐときは、画像のように目貫(めぬき)を抜いて、 刀身だけの状態にして研ぎます。 このような『着脱式』にしないと、柄が邪魔になって、 刃元の部分がうまく研げない場合があります。 |
◆――ということで、
今回は、『漆刷毛の切り出し方』として、主に塗師包丁を用いるやり方をご紹介しました。
塗師包丁は漆塗りの伝統的な刃物ですが、ネットで検索すると、最近は鉋刃を使う方法が主流のようで、
ひょっとするとそのやり方のほうが、手早く確実に切り出しやすいかもしれません。
今回の記事は、『昔ながらの切り出し方の一例』として、参考にして頂ければと思っています。
◆漆刷毛は切り出し方ひとつで、ずいぶん使い勝手が変わる道具だと思います。
いろいろな切り出し方をトライアルすると、自分だけの思いがけない効果を実感できるかもしれません。
漆刷毛の切り出しの要領は――、
①自分の塗りやすい形状に切り出し、②刷毛目が立たないようにきめ細かくほぐし、
③ゴミ・切れ毛・折れ毛をできるだけ取り除く
――の3点に要約できるかと思います。
ここにご紹介した方法は、用具・工程・手法ともに、ほんの一例ですので、
それぞれやりやすい方法で、独自に工夫なさってみてください。
きっとすごく楽しめると思います。
それでは今回はこの辺で。
最後までおつき合いくださり、誠にありがとうございました。m(__)m
※次回は、『漆刷毛いろいろ』と題しまして、手持ちのやや珍しいアイテムを、いくつかご紹介したいと思っています。
(平成26年12月14日記)
【追記――『揉み出し』と『突き出し』――H26.12.22】
※漆刷毛の「揉み出し」と「突き出し」について、以下、画像をまじえて簡単に追記します。
①「油水」をからめながら、 刷毛の汚れを揉み出しているところ。 (※刷毛はこれまでとは別のものを使ってます。) 刷毛を両手で握り、左右に傾けながら なめらかに往復させます。 だいたい1分間、100往復くらいしたら・・・ |
②“突き出し箆(つきだしべら)” を使って・・・ (※この突き出し箆は、たしか、 萵苣(チシャ)の木で作りました。) |
③表裏10回ずつ突き出します。 ①~③を3セットくらい行なうと、 毛が自然にほぐれ、毛の中に潜んで いた糊漆ゴミや折れ毛・切れ毛など を効果的に取り除けます。 |
【漆刷毛の切り出しQ&A】 Q1.毛を切り落とさずに、板だけを切り出して使っても良いですか? A1.いろいろなやり方があると思うので、 「参考」としてお読み下さい。 (※右画像もあわせてご参照ください。) 「刷毛がチビた」というのは、刷毛を使い込んだ結果、 右図A(イ)の状態から(ウ)の状態になることだと思います。 (エ)の部分を、講師は「土踏まず」と呼んでます。 鎌倉彫では、土踏まずの上の三角屋根の部分が (ウ)のように鈍角にすり減って使いづらくなると、 『だいぶ刷毛がチビたから、そろそろ切り出そうか』 ということになります。 鎌倉彫の塗り工程では、彫刻の谷やキワにも漆を塗り込むので、 鈍角になった毛先を、鋭角にリニューアルする必要があるのです。 |
【←】やや使い込んだ刷毛と切り出して間もない刷毛。使い込んだ方は、毛足が短くなって、毛先の角度も鈍角になっています。 | |
ご質問は、 『図Bの(ア)の「木の部分」だけを切り出して――そのぶん毛足を長くして――使うのはOKか?』 という意味だと思いますが、鎌倉彫の漆刷毛の場合、次の①②のハードルが生じると思います。 ① (ア)の刷毛板(=木の部分)を切り出したあと、 長すぎる「土踏まず」(エ´)を短く修正しながら、毛先を鋭角な砲弾型(イ)の形状に整形するのは、 技術的に難しいです。 (※固い毛板を刃物で削って整形するのはさほど難しくないですが、 使い込んでバラけた毛先をきちんと整形するのは、難度が高いです。 部分的にえぐれたり、左右アンバランスになったり、毛先に凹凸が生じたり、 結果的に以前より短かい毛足に仕上がってしっまたり・・・ なかなか「理想の形状」にならないと思います。) ② (ア)の刷毛板(=木の部分)を切り出したあと、その下から露出する毛板(=毛の部分)には、 毛板本来の「糊漆」のほかに、塗り作業の過程で少しずつ滲み込んだ「漆&顔料」も 硬く固まって付着しています。 (※図のピンク色のあたりに固まって付着します。) この「固まった部分」を充分にほぐさないと、実質的に、毛足は長くなりません。 また、この固まった「漆&顔料」は――特に中塗り刷毛・上塗り刷毛にとってはクセモノで――、 放置すれば徐々に砕けてゴミやフシの原因となり、塗りの仕上がりに支障をきたします。 なので、かなり徹底的にほぐして、固まりを除去する必要があるのですが、 しかし、硬く固まった「漆&顔料」を玄翁などで叩いて、毛足の根元から排除するのは一仕事です。 (※「毛板の糊漆だけ」なら大変じゃないのですが、 毛足の根もと(≒刷毛板のキワ)に固着した「漆&顔料」を取り除くのは、非常に骨が折れます。 玄翁で叩いて粉砕するにしても、なかなか粉砕しきれないし、 手慣れていないと刷毛板のほうを叩いてしまったりして、刷毛本体を損なう事態もありえます。 千枚通しで気長にすき出そうとしても、毛も一緒にちぎれてくるので上手くゆきません。 ※上の「漆刷毛の切り出し」でご紹介した『錆付け刷毛』のように、良さげな幅で毛板も刷毛板も一緒に切り出して、 「漆&顔料の固着ゾーン」を毛足の先端に移動させれば、玄翁が効きやすくなります。 しかしこの場合も、固まった朱漆などは毛に深くこびりつく傾向があるため、毛の先端部分だけが硬くなって、 塗ると「刷毛目」が立ちやすい仕上がりになってしまいます。 これは錆付け刷毛などではあまり問題にならないですが、中塗り刷毛・上塗り刷毛では致命的な欠陥になります。 そんなわけで、中塗り刷毛・上塗り刷毛の場合は、 「漆&顔料」の固まった部分を、刷毛板のキワから4~5ミリくらい下のラインで、 いさぎよく切り落としてしまうことが多いのだと思います。) これまでの体験では、 『汁口の軟らかい漆を塗るのに調子良い「薄口タイプの刷毛」で、毛足が長め』 『木地呂・黒蝋色・ガラス用漆などの喰い付きの強い漆を塗っていない』 『あまり塗り込んでおらず、そのため顔料などがそれほどひどく固着していない』 という条件をクリアしていれば、 毛足の根元で固まった「漆&顔料」を取り除くのは、ある程度まで可能かもしれません。 (※5日~7日ほど、乳化した“油水”を含ませてから、玄翁で叩いて洗い落とす方法があります。 ただし、毛足の根もとが硬くなって「腰」のバランスが崩れた仕上がりになるので、あまりお奨めできません。 腰のバランスに目をつぶるとしても、 そのあと『土踏まずの短縮』『砲弾型の鋭角整形』というハードルが控えているので、 やはり、ちゃんとした形状の刷毛先にはなりにくいと思います。) 一般に鎌倉彫で使われる漆刷毛は、 毛厚が厚めで、毛の密度も高く、粘り腰の、 形の良い砲弾型に切り出されたものが好まれる傾向がありますので、 ご質問のような切り出し方をする人は、ほとんどいないのではないかと思います。 これで回答になってるかどうか不安ですが、まずは「ご参考まで」ということでご海容ください。 【追記】 念のため、この件につき漆刷毛師の泉清吉さんにうかがったところ、 次ような内容のコメントをいただきました。(要点を要約しました。) 『・刷毛板だけ切り出して毛足を長くしても、土踏まずの部分が長くなってしまうので、使いにくいでしょう。 |
Q2.塗師包丁や鉋刃でなく、「切り出し小刀」を使っても良いですか?
A2.これも、いろいろなやり方があると思うので、参考としてお読みください。
切り出そうとする刷毛の幅が、「切り出し小刀」の刃渡りの半分強くらいのサイズなら、
切り出し作業に使うことは可能だと思います。
(※刃渡りが短いとすぐ切れなくなるし、毛の先端を直線に整形しにくいです。
まずは七分幅以下くらいの小ぶりの薄口刷毛でトライアルするのがお奨めです。)
ただし、サイズの大きい普通厚~厚口系の刷毛先を、さっくり切り落として整形するような作業には、
塗師包丁や鉋刃のほうが向いていると思います。
講師の場合、切り出し小刀や彫刻刀は、
「毛足の部分的な調整」や「刷毛板のあま皮剥き・面取り」などに使うことが多いです。
(H.28.6.16記)
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Q3.「刷毛の切出し」の画像㉑のところで、
『普通はこのあと玄翁で叩いてほぐす』とありますが、
どんなふうに叩いてほぐすのですか?
A3.最近やっている方法をご紹介します。
① 叩き作業に使う道具です。 一番上のが、イタヤカエデの「仮枠(かりわく)木槌」。 頭の長さが24cmあります。 2番目は「ブロックハンマー(エボシ槌)」。 三木の鍛冶屋さんが作ったものです。 3番目は「ケレンハンマー」で、 素性は分かりませんが良い仕事をします。 4番目はホームセンターで買ったゴム槌。 安くて調子良いです。 一番下のは「白樫の板(1センチ厚)」で、 金床の代わりに木台として使います。 |
② これは毛髪(:糊漆未処理の自然毛)の拡大画像です。 左の白っぽくなっている所は「白樫の木台」を 使ってイタヤカエデの木製槌で叩いたあと。 右のつぶれている方が、金床を使って鉄製槌で 叩いたあと。 毛束を叩くのと毛一本を叩くのとでは、クッションの効き 方が全然違うし、そもそも糊漆を吸った漆刷毛の毛は、 画像の毛よりずっと丈夫なはずです。が・・・しかし。。。 それらを勘定に入れても、木と鉄を比べると、髪に与える ダメージという点でかなりの差異があるようです。 「叩き」はあくまでも毛を「ほぐす」ための作業なので、 毛をつぶしにくい「木」の方が向いていると感じます。 |
③ イタヤ木槌の先端。 90度角の鎬(しのぎ)状に切削成形した後で、 面を取って丸めて、漆を塗ってあります。 鎬状の先端部分で毛足の根もとを叩き、 台形の切削面で毛先~中程を叩きます。 槌の頭の部分だけで、約250gの 重みがあります。 |
④ ケレンハンマーの先端は、ダイヤで擦って、 フェルトバフで磨いて、かなり丸めてあります。 |
⑤ ブロックハンマーも やはり先端を丸めてありますが、 ケレンハンマーよりは尖らせてあります。 |
⑥ イタヤ木槌で広重さんの2寸刷毛(毛厚6.6mm)を 叩いているところ。柄ではなく頭を持って叩いてます。 (柄は要らないのかも・・・ でも、今のところ柄を切る気にはなれません。笑) 「こんなもんで効くのか?」と言われそうですが、 ヒジ・手首を支点にして打つと正確に連打できるので、 短時間で効率よくほぐせます。 刷毛板の境い目がよく見えるので、刷毛板を誤打せず に、毛足の根もとを狙い打ちしやすいです。 最近は、このイタヤ木槌のお世話になる事が多いです。 |
⑦ ケレンハンマーとブロックハンマーは、 大昔に買った刷毛匠さん、田中さんの漆刷毛を ほぐすときに使ってます。 どちらの刷毛も、毛をカチカチに硬めてある タイプなので、イタヤ木槌では仕事がはかどり ません。 お湯や油を含ませながら、鉄槌で根気よく 時間をかけて叩いて行きます。 折れ毛や切れ毛が発生しやすいですが、 木台を使うと少しは緩和できます。 先端に大きな丸味をつけたケレンハンマーは、 毛足の先端~中程をほぐすのに使ってます。 (※上の画像サンプルの刷毛は 広重さんの2寸刷毛です。) |
⑧ 一方、やや尖り気味のブロックハンマーは、 毛足の根もとをほぐすときだけに使います。 ※ケレンハンマーもブロックハンマーも、 頭の部分の重み(約350g)を利用して 叩く感じなので、柄をかなり短かく持って います。腕力はあまり使いません。 ケレンもブロックも、 刷毛板の境い目が 見やすいので、刷毛板を誤打せずに 効率よくほぐせると感じます。 |
⑨ 仕上げのほぐしには、ゴム槌を使います。 毛に固着している微細な糊漆を払い落す のに調子良いです。 当たりがソフトなので、仕上げ直前の毛を 傷つけることもありません。 |
【⑩まとめ】 ここまで、主に「叩いてほぐす作業」に焦点を 絞ってご案内しました。 実際の作業では、 「つまみ板の角に毛足の根もとを押し当てる」 「菜種油で揉み出して突き出す」、 「石鹸で洗う」などの作業も加わります。 (※田中さん・刷毛匠さんの刷毛は、「ご飯糊で揉み出して 突き出す」という作業を加えることもあります。) 叩いてほぐして押し当てて、揉み出して突き出して、 洗い流して、乾かして――それで足りなければ また叩いてほぐして押し当てて・・・ ・・・という感じです。 叩き・ほぐしには、いろいろな流儀があるので、 以上のやり方はほんの一例です。 お役に立ちそうな所があれば、ご参考になさって ください。 (H28.6.28記) |
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――つづく――
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